1・一般家庭の定期調律(平均率)の手順。
a:調律(音合わせ)の手順。



写真1
ここでは、調律の理論は抜きにして、一般家庭での平均率の調律を調律師がどのような手順で行っているのかの手順を解説します。音合わせ作業の後姿をみていても、今何をやっているのかがわかっていただけると思います。
 * UP=アップライトピアノ、GP=グランドピアノ
 (1)ピアノの鍵盤のふたなど、調律する際に邪魔になるものをはずす。☆写真1参照
  UP:天屋根(上のふた)をあけて、上前側(上の手前のパネル)をはずしてから鍵盤のふたをはずす。
  GP=大屋根(上の大きなふた)をあけて、譜面台もはずす。
  UP=鍵盤押さえ棒、弱音装置のマフラーバーなどもはずす。(機種により異なる)

写真2
(2)全体の音の狂いの程度の判断や、調律以外に必要な調整や修理箇所がないかを全体の鍵盤をたたいてみる等して点検する。このときに、調律以外の調整や修理作業の時間配分なども考えて作業全体の流れを決めます。
(3)鍵盤やハンマーなどの部品に作動不良等の修理や調整箇所がある場合は、調律の前に修理・調整作業をする。調律時にはすべての鍵盤を数回は弾いて動かすのでそのときにも細かな調整の具合を点検していく。

写真3-1
(4)調律工具を準備する。(音さ、チューニングハンマー、フェルトウェッジ、ドライバー、ロングミュート、棒ウェッジ、等。工具の写真は「調律工具アイコン」のページをご覧下さい。)
(5)まず、中音域の音を合わせます。はじめに、平均率理論による1オクターブ音階を作ります。中音域の弦は、1つの音に対して3本の弦が張ってありますので一度に3本の弦を合わせることができないので、そのうち真ん中の弦だけをまず合わせるためにロングミュートを各音の左右の弦のすき間に差し込んで各音の弦の真ん中の弦だけしか音が出ないようにします。☆写真2参照

写真3-2
(6)音さの音を聞きながら、真ん中の「ラ」の音を音さの音とぴったり合うようにチューニングハンマーをチューニングピンの差し込んで弦をゆるめたり引っ張ったりしながら合わせます。ピンは、チューニングハンマーで動かしても力を抜くとねじれて逆方向にややずれますので、ピンのねじれ具合も手の感覚で判断しながら操作します。「ラ」の音は、音の高さを表す周波数で「440Hz」や「442Hz」で合わせることが多く、演奏者からの指示があればピアノに調律上の問題がない場合指示に従って合わせます。☆写真3参照

写真4
(7)平均率理論の解説はここでは省略しますが、「ラ」の音を元に1オクターブの平均率音階を作ります。通常、真ん中の「ラ」の1つ下の「ラ」の音程をとって、ここを中心に「ファ」から「ファ」の間の1オクターブを作ります。
「ラ」以外の音は、相対的な音程間の響きを聞いて合わせます。純正な響きの世界では、きれいに響くとされる完全4度(ラ−レ間、ソ−ド間、等)や完全5度(ファ-ド間、ソ-レ間、等)の2音を同時に鳴らした場合、きれいにすんだ響きになれば良いのですが、平均率の世界ではすべての音程間にずれを均等に割り振らないと1オクターブが完成しません。このずれは、平均率の各音程を周波数で計算したときにルートの計算になって割り切れなくなるためです。
2音間を同時に鳴らしたときに「うなり」という音がずれたときの独特の倍音の響きが発生し、この「うなり」のスピードを理論通りに響くように音程を合わせます。たとえば、「ラ-レ間」で、5秒間に約5回うなる、「ファ-ド間」で5秒間に約4回うなる等です。
☆写真4参照

写真5
(8)1オクターブが完成したら、中音域の各音のオクターブ音程を合わせてさせ、中音域のユニゾンを合わせます。1オクターブのユニゾンを合わせてから1音ずつオクターブとユニゾンを合わせる場合もあります。
オクターブは、ほぼオクターブ2音間の響きがきれいに響くように調律します。しかし、ピアノの機種や材質、設計、お部屋の環境等により、厳密にはピッタリに合わせるわけでもない半面、1セント(半音の100分の1)単位での音程間の精度も求められるので、各オクターブ間の中にある4度や5度の音程(ソ-ソ間の場合、レ-ソ、ド-ソ等)や3度音程等の平均率音程での「うなり」の数を聞きながら微調整して、各音程間がどの音程でもむらなく響くように音程を合わせます。
ユニゾンは、すでに合わせた真ん中の弦と左の弦を響くようにして、基本的に響きに「うなり」がないように合わせます。また、ピアノの響きの特徴も考慮して調律の特徴もそろえます。ユニゾンを合わせるときに左右の弦の間にはさんだロングミュートを1音ずつ合わせながら抜いていきます。
☆写真5参照
(ユニゾン=同じ音の弦が1つの音にまとまるように、お互いの弦を同じ音程になるように合わせること)

写真6
(9)中音域が終了したら、低音域を調律します。先に高音域を調律する場合もあります。
低音域は、コンサート用グランドピアノなどでは1つの音に対して3本の弦が張ってありものがありますが、一般家庭のほとんどのピアノは、低音域の最低音部から約1オクターブが1つの音に対して1本の弦、次の1オクターブと少しが、1つの音に対して2本の弦が張ってあります。
低音域は、中音域から1音ずつ右の弦から左の弦に向かって最低音まで進んでいきます。オクターブを合わせてユニゾンを合わせる(同じ音のとなりの弦を合わせる)という手順で最低音まで調律します。1つの音に対して1つの弦しか張っていない音は、ユニゾンを合わせる作業がなく、オクターブを合わせるだけです。
2本弦のオクターブ音を合わせるとき、片側の弦の音を止めるには、フェルトウェッジを使います。
☆写真6参照

写真7-1
(10)次に高音域を調律します。高音域は、低音域と反対に、中音域から最高音の音に向かって1音ずつ左の音から右の音へ進んでいき、最高音まで合わせます。高音域は、通常1つの音に対して3本の弦が張ってあり、各音とも、左か右どちらかの弦でオクターブを合わせてから、真ん中の弦のユニゾン、残りの弦のユニゾンを合わせていきます。
一般に、GPではフェルトウェッジを使い
☆写真7参照、UPでは棒ウェッジを使います☆写真8参照。

写真8-1

写真8-2

写真7-2
(11)すべての弦を合わせたら調律は終了です。全体のバランスや音色のずれがないかを点検し、音色やタッチの調整も点検します。調律しながら気がついた調整の必要な部分を調整します。
調律以外の修理や調整については、この「ピアノ調律・調整の解説」コーナーの他の項目をご覧下さい。
(12)調律は、ピアノの音の狂い具合やピアノの状態によって、2度3度繰り返して調律することもあります。調律したときのピンのねじれ以外にも、引っ張った弦のすべりのくせやピンの時間と共に起こるねじれ、響板や駒等の木の状態の変化によっても調律直後から調律がずれることがありますので、1回の調律で必ずしも音程をぴったり合わせられるものではありません。
(13)ペダルの点検、タッチの点検等、調律以外の作業も終了したら、ピアノの鍵盤のふたなど、はずした部品を元通りにして作業は終了です。