2・ピアノの維持管理編
ピアノの音が狂いにくくなる方法は?


 
 ピアノの音がまったく狂わなかったらいいな〜と思ったことがある人も多いでしょう。
 ピアノの音が狂うのは、ピアノの各音程の音を出している金属の弦の引っ張る力に変化が生じたり、弦が伸び縮みすることが1つの原因です。ピアノの木が伸び縮みをしても弦の引っ張り具合などが変わってしまいますので、これも音の狂いに影響します。

「温度・湿度の変化を少なくする」ことが、音を狂いにくくさせる第1条件です。
エアコンの風を当てない、直射日光を当てない、足元にストーブを置かないといったことは、ピアノを弾く方が努力をしていただかないことには、せっかくの調律も台無しです。全くエアコンを使わないというのは、現代社会では難しいことでしょう(少なくとも私は)。問題はそのエアコン等冷暖房器具の使い方です。できるだけピアノから離した位置で使用し、間接的に徐々に冷暖房をするように心がけてください。
加湿器の使用や、ストーブの上に水の入ったやかんを置くことは、人間にとっては乾燥を防ぐ意味がありますが、ピアノにとって人工的に発生する部分的な水蒸気は、フェルトや木の部品がそれらの水蒸気を吸いやすい他、金属の弦に水道水の不純物が付着することで、異常なサビや腐食の原因になることもあります。
湿度は高すぎても低すぎてもピアノに悪影響を及ぼしますが、その変化が激しいとすぐに故障の原因になります。

「大きく音が狂う前に調律をする」ことも、調律した正しい音程をより長く持続させる上で重要です。
大きく音が狂った状態でそのまま弾きつづけると、弦と木の力のバランスが徐々にその状態でバランスよく引っ張り合うようになってしまいます。つまり、狂った音の状態でピアノが落ち着いてしまうのです。こうなると、1度調律をしても調律した直後のほうが木や弦の響き具合がむしろ悪くなったり雑音が出やすくなったりします。非常に固い鋼鉄製の弦は、一度悪い癖がつくとなかなか簡単には言うことをきいてくれません。調律前の狂いが大きければ大きいほど、調律後に狂う度合いも多くなります。
「1年に1回は調律してください」というのは、趣味程度にお弾きになっている方の日本の平均的な家庭環境での狂い具合をみて、大きく狂いだすちょっと前という目安ですが、これは、どちらかといえば「弾いて狂う量」よりも、季節や1日の昼夜の「温度・湿度の変化によって音が狂う量」を目安に1年としています。ですから、温度湿度の変化が激しいエアコンを良く使うお部屋、キッチンのそば等に設置されている場合は、10ヶ月に1回とか、半年に1回の調律が必要です。
新品のピアノの場合は、弦の金属自体がまだ伸びやすく音の狂いが大きいので、1〜2年の間は半年から3ヶ月に1回は調律しておきましょう。悪いくせがはじめについてしまうと、将来ピアノの本来の性能を最大限発揮できなくなってしまいます。

演奏することでも音が狂います。ピアノは、ハンマーが弦をたたいて音が出ます。しかも、勢いよく弦をたたきます。鍵盤の深さはおよそ10mmですが、ハンマーは、およそ46から48mmもの距離を勢いつけてたたきますので、たたかれる弦は伸びていき、音は弾いた分だけその都度わずかに狂っていくます。しかし、これは、ごく自然のことです。狂うからと言って弾かないのでは、楽器ではありません。確かに、演奏者のタッチによって、多少音の狂い方が違うのも事実ですが、私はこのことについては、何の制約もしたくありません。自由に弾いていただくのが1番ですから。
激しいタッチで演奏される方や、時々でも長時間まとめてお弾きになる方、1日平均して、1時間半以上お弾きになるピアノは、少なくとも半年に1度は調律しておきたいものです。

 音に神経質な方なら、それこそ調律をした直後からでも音の狂いが気になることがある思います。管楽器・弦楽器などは、演奏者が演奏前だけでなく演奏中にも音程を微調整しています。ピアノの場合は、これらの楽器に比べると音の狂いは少ない方です。しかし、調律した直後でも調律をしている最中でも、本当は音は少しずつ狂っていきます。生の楽器だけに、完璧と言うことはないでしょう。ピアノの設計や材質によっても、きれいに響く音程の値が変わります。個々のピアノに合った理論値に基づいて調律される場合には、全体の音のバランスが良いかどうかも重要になります。そのためにも、こまめなメンテナンスが欠かせないのです。

 音の狂う度合いは、以上のように、お部屋の環境や演奏方法、、ピアノの設計や材質によっても様々ですし、その年の気候状況にも影響されます。個々のピアノの最適な調律時期については、担当の調律師にアドバイスしてもらいましょう。