2・ピアノの維持管理編
ピアノの寿命ってどれくらい?


 ピアノの寿命を決める判断基準は様々な状況で条件が異なりますので、「何年」と断言することはできません。一言で言うならば、ピアノを使われている演奏者が、もうこのピアノはだめだと思ったときが寿命と言っても良いかもしれません。

 ピアノの寿命を、多くの調律師やピアニストや一般ユーザーの判断してきた状況を平均すると、次のような数字が出てきます。
 国産のアップライトピアノで、使用時間が1日30分から1時間程度。演奏曲目は、一般的な音楽教室で演奏するような、クラシックが中心。この場合、およそ40年から50年くらいは、特に工場での大掛かりな修理を必要としないで、定期的な調律と調整・簡単な修理をしていくだけで、維持していけます。
 逆に、一般的に寿命が短いといわれているのは、コンサート用の大きなグランドピアノです。このピアノの場合、7年から15年がせいぜいという意見が多いようです。

 さて、ピアノの寿命と言っても、ある日突然すべての音が鳴らなくなるというわけではなく、寿命と判断する基準によっても様々です。
 まず、ピアノは枠組みの木や鉄骨、ピアノの音を響かせている響板といった、重要な骨組みがいたんでいなければ、調律と各部品の調整、修理をすることによって、半永久的に使えるとも言えます。ですから、100年以上前のピアノでも、部品を交換したり補修したりすることで、ピアノであり続けることができます。補修用の部品は、大手メーカーのものでしたら電気製品と違い、何十年たっても手に入れることができます。手に入らない部品でも、木や金属の部品を手作りで作って修理することも不可能ではありません。
 しかし、年数が経つにつれ、金属の弦や、弦をたたくハンマーなどの部品がいたんできて部品交換を必要とする場合、その修理費用が高額になってしまうのが一般に寿命と判断されるタイミングになることも多いです。これが、初めに申し上げた寿命の目安です。ですから、修理や部品交換さえしていけばピアノにとっての寿命は相当長いのです。

 次に、演奏者側が寿命と判断する場合です。鍵盤タッチは基準値に調整され、音程も調律されて整っており、部品も動いていたとしても、使用状況と使用時間によりピアノの状態が徐々に衰えていきます。例えば、音の伸びや輝きがなくなってきた、迫力のある音が出なくなってきた、音色の表現の幅が狭くなった、音が狂いやすくなったなど、演奏するのに演奏者が不満を感じた場合、それを調整することで直せるのか、大掛かりな修理を必要とするのかでも、費用も変わってきますし、場合によっては修理をしても十分な力を発揮できないほど、木がいたんでいる場合もあります。簡単には細かな調整が難しい状況になっていることもあります。特に、使用条件が激しい専門家の方がご使用の場合や、音楽教室でのご使用、エアコンの影響を受けやすい場所においてある場合などは、部品の痛みが激しくなり、それだけ、良い音で楽しんでいただける期間も短くなります。特にピアノの場合、弦が引っ張っている力が非常に強く、平均的なピアノの場合1本80kg程度の力で二百数十本の弦がはってあるので、その力の合計は15トンから20トン、これらの力を支える木が劣化することは、ピアノの表現力にとってはとても致命的なことなのです。