3・ピアノの状態編
鍵盤の動きが悪くなった。


一番多い原因は、湿気


 ピアノの鍵盤は、シーソーのようになっていて、鍵盤を押し下げる力を抜くと、鍵盤奥側にあるハンマー等の部品の重みで自然に戻ります。鍵盤の下にバネ(スプリング)があって鍵盤が戻ってくるわけでは
ありません。この、シーソーの運動がうまくいかなくなると、鍵盤の戻りが遅くなったり、途中で止まったり、下がったまま戻ってこなくなったりします。

 この症状にはいくつかの原因がありますが、最も多い原因は
ピアノの部品が湿気を多く含くみふくらんでしまった場合です。ピアノには多くの木の部品が使われており、鍵盤も表面にはアクリル等が貼ってありますが、中身は木でできています。1日の温度変化や湿気変化により、多少のソリや伸縮はあります。多少の湿気の変化であったりゆるやかな湿気の変化であれば、多少部品がふくらんで動きがきつくなったとしても、演奏して部品がこすれあったり動くことで削れてしまいます。また、もともとピアノの部品は一般の木工製品に比べて湿度変化に強く作られていますし、多少の余裕を持って調整してあります。しかし、急激に湿気が入ってしまったり、加湿器やお料理の蒸気などの不自然な湿気、あまり日中窓を開けて換気なさらないお部屋、あまり演奏していないピアノであったり、年月とともに徐々に湿気が入っていてすでにピアノに含まれる湿気が飽和状態だったりすると、あるとき突然鍵盤が動かなくなったりします。また、1日の中でも湿度が高くなる夕方や、暖房器具をつけた直後にピアノのそばの壁が結露を起こす状況であったりすると、そのときに鍵盤の動きが悪くなることもあります。結露を繰り返す環境では、ピアノの内部の部品がさび等でふくらんで動きが悪くなっていることもあります。

 次に多い原因は、
鍵盤の下に何か物がはさまってしまったり落ちている場合です。小銭やゲーム用のコイン、ヘアピンは故障修理の原因の常連さんですが、お客様が驚かれる原因では、なんと、紙の切れ端や消しゴムのカス、鉛筆の芯が鍵盤のすき間にはさまって動かなくなっていることもあります。1つの鍵盤を押してとなりの鍵盤もつられて動くようなときは、ほとんどの場合、すき間に何かはさまっていますので、少しだけ鍵盤同士のすき間をを左右に広げてあげると消しゴムのカスや鉛筆の芯くらいなら鍵盤の下のすき間にはさまっていたものが落ちて直ってしまいます。

(注意)
無理に鍵盤を左右に引っ張りすぎると、鍵盤の調整が狂ったり鍵盤の上面がはがれたり割れてしまうこともありますので、軽くやってもなおらない場合は調律師に修理を依頼してください。
(注意)消音装置や自動演奏つきのピアノの場合は、鍵盤の下に細かいものでも落とすと電気回路がショートして火災の原因になることもありますので、物がはさまったり落ちたりしたような場合にはコンセントを抜いてすぐに調律師に点検してもらってください。
(注意)消音装置や自動演奏つきのピアノの場合は、鍵盤を横に向かって力をかけると鍵盤下のセンサー部品が破損することがありますので絶対に横に力をかけないで下さい。

 これらの鍵盤故障の原因は、どれも修理は簡単なものが多いので、早めに調律師に連絡をして状況を見てもらいましょう。鍵盤の動きが悪いのは、弾く人にとっては非常に不便ですしね。鍵盤が動かなくなったくらいでは、ピアノの寿命と関係ありませんのでご安心下さい。

 なお、時々動きが遅くなったり、日によってまたは、時間帯によって動きが悪くなる程度であれば、ピアノの周囲の湿気を少なくするようにお部屋を換気して風を通したりするだけで、数日で改善されることもありますが、初めてこのような症状が出た場合には、やはり念のため調律師に見てもらったほうが良いでしょう。

(注意)
湿気が原因とはいっても、ピアノに直接エアコンなどの風を当てて乾燥させたり、ドライヤーの風を当てたりしないでください。急激な温度・湿度の変化はいかなる場合でもピアノには危険です。エアコンの風によって木が乾燥しすぎて割れたり反ったりすると修理不能になることもあります。また、ドライヤーで高温の風を当ててしまうと、白鍵の接着剤がはがれてしまいます。(張替え修理の場合を想定して、はじめから熱によって簡単にはがれるようにつくってあるからです。)


 鍵盤故障修理の依頼は、湿気が原因の場合、調律師が調律や修理にお伺いしたときに湿度が低かったりすると一時的に調子良く直っていることもあります。部品の動きは、故障を防ぎたいからと全部の部品を必要以上にゆるめに調整するよりは、むしろ動くぎりぎりの線で適度にぴったりしているほうが弾きやすく部品も長持ちしますので、「故障してたのはどこだかわからないけど見ればわかるでしょ?」という依頼の仕方ではなく、どの鍵盤がどのように動きが悪かったのかをきちんとメモに書き留めておいて調律師に伝えたほうが、必要最小限の調整で木を圧縮したり削ったりする作業も少なく済みます。大切なピアノを大事に守るためには、まず持ち主が自分のピアノのことをよくみてあげることから始まります。

(お願い)鍵盤の動きが悪くなる原因になる部品は88個ある鍵盤の木に限りません。ハンマーやその他回転運動などをしているすべての部品の中の1つでも部品がわずか100分の2〜3ミリふくらむと動かなくなります。その部品の数たるや・・・何百箇所にも及びますので、調子が良く動いているときに全部を点検することは時間も大変かかりますので、修理ご依頼の際には正確な情報を伝えていただきたいことをご理解ください。事前に正確に故障状況がわかることで短時間に的確な修理・調整ができますから、修理費用も安く抑えることができます。