最近、生ピアノに消音装置を取付けることで、ヘッドフォーン演奏も生ピアノ演奏も両方できるピアノに改造できる「消音ピアノ」が人気です。電子ピアノで練習するよりも、本物のピアノの鍵盤で練習できるとあって、夜に練習される方にはありがた〜い装置です。
近年、この「消音ユニット」は、出始めの頃の装置とは格段に性能が良くなりました。特に、取付ける際に必要なタッチの変更が少なくなったことで、装置を取付ける前と後との差が非常に少なくなったことが良い点です。しかし、全くタッチの調整を変えないわけではありません。
ピアノのタッチの調整には、多くの調整個所が1つにまとまって初めて普通のタッチのピアノに仕上がります。例えば鍵盤の高さ、深さ、ハンマーと弦との距離、等々・・・たくさんあります。この調整には世界共通の基準値があり、その値には多少の許容範囲があります。この許容範囲内でいろいろなサイズのピアノを、それぞれの設計に合わせたベストコンディションにメーカーや調律師によって調整されています。
そこで問題になるのは、「消音装置を取付けるとどうタッチが変わるか?」ですね。
先に、「どの程度変わるのか?」という点を述べておきます。
初めから消音装置が付いているピアノの場合は、そんなに違和感を感じません。もともと生ピアノもピアノによってタッチの感触が違いますし、アップライトとグランドのタッチの違いはけっこう大きいものですね。それに比べたら微妙かもしれません。
しかし、今まで何年も使っていたピアノに後からつける場合は、慣れたピアノのタッチの感触に対して、多少の違和感を感じられる方もいらっしゃいます。
また、タッチの感触は、人の個々の手や指の形や長さによってもタッチの差の感じ方が異なります。
さらには、多くの種類のピアノの演奏経験がある方ほど、「タッチの違和感を受け入れる技量」もあると思います。
そしてこの差は、消音装置を取付けるピアノの機種や、取付け前のピアノの調整状態にもよります。
取付けるピアノが中古ピアノの場合は、毎年調律をしてあるピアノであっても、消音装置を取付ける前に、タッチの調整にばらつきがあったり、基準値からはずれてしまっていることもけっこうあるんですよ。それは、そのピアノのタッチの許容範囲が広いからともいえます。その場合は、消音装置を取付けることによって、むしろタッチがバランスよく感じることもあります。
実は、消音装置を取付けるためには鍵盤の運動量やハンマーの運動量をかなりシビアに調整しなければならないので、許容範囲も狭く、ハイレベルな取付け技術を必要とします。そのため消音取付けにはメーカーの厳しい「取付け認定技術試験」に合格しなければ取付けできないメーカーがほとんどです。
さて、それでは、本題の「どう変わるか?」ですが、最も変わるのは、ppやffや連打の感触が微妙に変わるというのが最も多い表現です。
消音装置を取り付けるデメリットは、次の点が微妙に悪くなる点です。
生ピアノはものすごくゆっくり鍵盤を押しさげると音が抜けて出ませんよね。あの音抜けするタッチの最低限必要な強さが、ややタッチが強めでないと取付け前よりわずかに抜けやすくなります。次に、強い音の演奏が、やや腰が抜けた感じに響いて感じることがあります。そして、連打をわずかにしづらく感じることがあります。これは専門的な調整部分の中で、ある部分を通常のピアノの許容範囲よりもずらさなければならない点があるからです。
通常ピアノは、鍵盤を下まで正しいタッチでしっかり弾くと、必ずハンマーが弦に当たりますが、消音状態のハンマーの動きの場合、弦の手前にあるストッパーの棒(消音バー)でハンマーの動きを止めなければならないのです。しかし、ハンマーは途中で止まっても、鍵盤は途中で止まってしまうわけに行かず、ちゃんと鍵盤は下までさがらなければならないのが難しい問題で、これを解決する為に、ハンマーが弦に向かって進む力を加え続ける位置を、弦がある位置ではなくて、ハンマーを弦の数ミリ手前で止めるストッパーの棒(消音バー)にあたる位置にずらす調整をします。(正確には、「弦に当たる数ミリ手前まで」を「消音バーに当たる数ミリ前」にずらす、です。)
発売当初の消音装置は、鍵盤の下にゴムボタンを利用して電子音を鳴らしていましたが、現在は鍵盤の下に赤外線のセンサーを入れて鍵盤の動きをセンサーで読み取って電子音を鳴らしていますので、消音装置を取り付けるために起こる「鍵盤にかかる力の変化」は、ほとんどなくなりました。
また、アップライトピアノ用に比べると、グランドピアノ用のほうがさらに消音装置の違和感は少なく感じる方が多いようです。
消音装置の取付けを悩まれていらっしゃる方は・・・
どうしても、消音装置を取付けるのに不安を感じられる方は、店頭で消音装置付きのピアノを試弾されると良いでしょう。
また、後付けタイプの消音装置の場合、数年後消音機能が不要になった場合に、装置を取り外して元のタッチの調整に戻せるタイプもありますので、「夜専用」や、「お帰りが遅くなる時期だけ」と、割り切って要領よく利用されると良いでしょう。
プラスチックの鍵盤の電子ピアノで練習することに比べたら、消音ピアノのほうが弾き心地は良いと思いますよ。
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