ピアノは重量があるため、普段、設置場所を変えることはあまりないと思います。
しかし、お引越しやお部屋のリフォーム・模様替えなどで移動しなければならないときに、気をつけなければならないことがあります。ピアノは一見丈夫そうに見えますが、実は非常にデリケートな木の楽器です。しかも、その重量のために運び方が悪いと、目で見てわからなくても楽器としての調整や性能、寿命に大きな悪影響を与える可能性もあるのです。基本的に、ピアノは一度設置したら移動しないほうが良いです。環境の変化は木の楽器にとってもっとも危険だからです。そうは言っても引っ越さなければならない等、どうしてもピアノを移動しなければならないときには、持ち主がピアノをしっかりと守らなければなりません。痛んでしまったピアノは、調律師が作業に苦労することが問題なのではなく、持ち主が良いピアノの性能を味わえなくて損をしてしまうことが問題なのです。
引越しするときは・・・
引越しするときにピアノはほとんどの場合、引越し業者では別見積り(オプション料金)になると思います。それは、ピアノは基本的に普通の家具と同じ要領では運べないからです。重量が重いことももちろんですが、何より「高価な楽器」であるからです。しかも、電気製品と違って万一のトラブルの際に全く同じものと交換することができないからです。大手引越し業者に依頼すると、ピアノはピアノ専門業者のトラックで別に運ぶことが多く、家具と同じトラックで運ぶ場合には、引越しの際にピアノの移動知識を持った人がチームの中に必ず1人つくようになっています。こういった業者の場合は、ピアノの移動も一括して任せて安心です。
しかしまれに、引越し業者によっては、ピアノ運び方の知識が乏しい人が家具と同じ感覚で運ぶことがあるかもしれません。そこで念のため、引越し業者にピアノは専門業者が運ぶのかどうか、またはピアノを運ぶ専門の担当者がいるのかを確認しましょう。心配ならご自分でピアノだけ「ピアノ専門の運送会社」に移動を依頼しましょう。ピアノと他の荷物をいっしょに運ぶ場合と別々に運ぶ場合では、必ずしもどちらかの方が安いとか高いとか決まっていません。電話帳では「ピアノ運送」という分類で分けて表示してあるのでわかりやすいです。担当の調律師にピアノの移動の手配を依頼することは、より安心です。
なお、ピアノは引越しの時間に余裕がある場合なら、引越しの荷物よりも先にピアノを設置してもらうと、業者も搬入しやすく、当然、ピアノにもより負担がかからないで移動することができます。もちろん、ピアノの設置場所にカーペットを敷く場合は、ピアノの設置よりも前に敷いておかなければなりませんね。
ピアノを設置する場所が1階でない場合には、階段やクレーンを使って搬入することになります。9人乗り程度のエレベーターがある場合は比較的スムーズに作業できますが、6人乗り程度のエレベーターの場合は、グランドピアノは入らなかったり、アップライトピアノでも側面を下にしてピアノを横向きに立てた状態で運ぶこともあります。玄関や廊下が直角に曲がっている場合も、奥行きのあるグランドピアノは運べなかったり、アップライトピアノはやはり横むきに立てて向きを変えることもあります。しかしこれらのことは、ピアノ専門の運送会社では日常茶飯事ですから、引越し先のお部屋までの経路について詳しい説明をしておけばおくほど、ピアノに無理のない方法を用意してくれますので、当日の作業もスムーズになります。単に移動先の住所を伝えるだけでなく、道路から設置するお部屋までの詳しい状況を伝えることで、運送業者側にもいかにピアノを大切に思っているお客様かということをアピールすることができます。万一引越し当日に、ピアノが搬入できなかったりしたら大変ですから、事前の詳しい説明はしっかり業者にしておきましょう。なお、窓からのクレーン搬入などは、電線やトラックをとめられる位置の確認も必要ですから、有料でも事前の現地見積りをしてもらいましょう。
お部屋の中や屋内移動の場合は・・・
お部屋の中で少しだけピアノの位置をずらしたいときやとなりのお部屋に移動するときは、力のある男性がいれば任せてしまいたいこともあるでしょう。床が固くキャスターだけで楽に移動できる環境ならばあまり心配ないかもしれませんが、多少でもピアノを持ち上げないと移動できなかったり、横からかなりの力をかけて押さないとピアノを移動できない場合には、費用は高くても「ピアノ専門の運送会社」に移動を頼むべきです。
室内移動の場合は、グランドピアノは3人、アップライトピアノは2人で移動するのが基本で、ピアノの周りに大人数が集まって運ぶことは、ピアノの木にとって大変危険な行為なのです。ピアノの重量は重いために、その力を支えるための複雑な物理計算によって設計されています。その力は基本的にピアノの外側の枠組みに分散してかかるように設計されています。さらに、ピアノの内部ではピアノの弦が全体で15トンから20トン近い力を引っ張り合って木や鉄骨でバランスを保っています。アップライトピアノを例にあげると、アップライトピアノを持ち上げるときに力をかけて良い場所は、両サイドの脚の上のあたりのたな板と、ピアノの裏側にある運搬用の握り手の部分です。クレーンで持ち上げるときは、底板にベルトを通しますが、これもピアノの裏側と外枠に向かって力が分散するようにベルトをかけています。もしこれを男手を集めて4〜5人で運ぼうとしたら、みなさんどこに手をかけますか?ほとんどの場合、鍵盤の周りに集まって持ち上げようとするでしょう。仮にこの鍵盤部分のたな板の真中に力のある男性が手をかけて持ち上げた場合、ここに一瞬でもピアノの重量が集まってかかったとしたら、最悪この板がそってしまい、鍵盤タッチの調整はすべてやり直し、しかも、中音域と高音低音域でタッチの物理的なムラがおこる可能性もあります。さらに最悪な事態を想定するならば、数多くの部品が集まって一体となっているアクションと呼ばれる部分の土台が平らでなくなり、故障が重なることもあります。さらにはピアノ全体の木のバランスもゆがんでしまい・・・。このように、ピアノの運び方には力のかけ方などのルールやコツがあり、それを知らない人が運ぶことは、楽器としてのピアノの性能を悪化させる危険があるのです。オブジェとして利用するのでなければ、専門知識を持った専門業者に移動を任せるべきです。
追記:ピアノのキャスター受け(インシュレーター)はゴム製のものが良いの?
ピアノのキャスター受けは、最近はプラスチック製のものが多くなりました。しかし、防音性や耐震性を高める為に良質のゴムでできたキャスター受けが販売されています。運送会社に引越し当日にすすめられることも多いようですが、価格は1万円台から高いものでは2万円台以上する物もあります。プラスチックよりは防音・耐震の面で優れている商品ですから、移動された際にはついでにゴム製のものに交換しても良いと思いますが、価格も高めですので、必要であれば事前に普段付き合いのある調律師に引越し前までに注文しておけば、多少の値引きもあると思いますよ。なお、引越し後はアップライトピアノの場合、ゴム製のものに交換するのが困難なこともありますので、必要性を感じる場合は、お早めに調律師と相談しておきましょう。
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