このページでは、ピアノ調律師の仕事に興味を持っている方や調律師になりたいと思っている
ピアノが大好きな方々へ、ピアノ調律師になるための勉強方法や就職先の種類、仕事の内容
などを紹介します。






調律の勉強は、調律のやり方を覚えるだけなら半年もかかりません。
しかし、調律以外の修理や調整の勉強には、演奏者からの様々な希望や要求がある限り、方法に限りはなく、調律もやり方を覚えても思った通りの調律を実際にすることは難しいので、卒業する頃には自分が調律師としてやっていけるかどうかの判断は自分でわかってしまう厳しさ悲しさもあります。
仕事も1日にそんなにたくさんこなせるわけではありませんから、収入面でも厳しさはあります。
調律師になりたいと思うのであれば周りに反対されても自分がやり続けるんだという強い意志がもてなければ、調律の学校を卒業しても就職はできないでしょう。
ピアノ調律師の適正とは?(身体的な適正基準の目安。)
まずは、身体的な適正についてのお話をしておかなければなりません。

身長は150cm以上が目安になります。学校や養成所によっては154cm以上位いが目安になっているところもあります。これは特に、アップライトピアノの調律をするときに、調律する姿勢をとるためには、
150cm以上の身長がないと調律作業が難しいからです。

手の大きさ・広がりも問題になります。例えばアップライトピアノの調律の場合、立った姿勢でピアノの鍵盤88個を何度もたたいて調律する中で、演奏テクニックはなくても作業はできますが、音をお合わせるときに1オクターブ同時に音を出して合わせる作業もすべての音で必要です。つまり、
1オクターブを左手で立った姿勢で鍵盤をたたき続けることができるかどうかも重要です。ある程度の握力も必要です。調律するときもチューニングハンマーという道具で常に腕相撲をしているような姿勢をとりますし、部品の点検や調整には何百個もあるねじをドライバーで回さなければなりませんので、鉄棒にぶら下がれないくらい握力が弱いと、様々な作業に苦労します。

調律は基本的に耳であわせますが、絶対音感であわせているわけではありません。基礎的な段階での調律には相対音感と言ったほうがわかりやすいと思いますが、2つの音の関係を調律理論と実際の状況に合わせてバランスをとって調律します。ですから、絶対音感はなくても大丈夫ですが、ドレミファソ・・・と聴こえている音に含まれている倍音という相当に細かい響きをバラバラに聞き分けて判断しなければなりません。そのため
幅広い音域の小さな音を聞き分ける力が必要ですが、多少の難聴で不可能と決め付けるわけでもありません。聞き分けることができる音域に関しては学校等で訓練をして幅広い音域を楽に聞き分けられるようにしていきますが、これに関してはどの程度の期間で完成するかどうかは個人差もあり一概に言えません。
調律の学校に行く前までは、
ヘッドフォーンの使用を控え、できるだけ大音響の中に長時間いないようにしておくことが大事です。
2 ピアノ調律師の適正とは?(性格面での適正基準の目安。)
調律師は基本的にイエス・ノーだけでは片付けられないこだわりの世界ですから、こだわるのが好きな人が多いです。それだけに個性も豊かですから、一概にどういう性格の人が調律師になるとも言い切れません。
しかし、適正という言葉で表すのなら、
集中力と持続力がある人でなければ仕事についても継続できないでしょう。学校を卒業したら一人前の調律師になれるというわけではなく、むしろ学校ではやり方の概略だけ習ってから、あとは現場で日々1台1台とのピアノとの出会いによって、調律や調整・修理の技術を習得し、工夫して発展させ技術の向上を目指していく仕事ですから、こつこつやることが苦手な人は、多分学校を卒業しても調律師の仕事に魅力を感じないと思います。
例えば、ピアノを子供のころからずっと習ってきたとか、勉強ではなくても自分が好きなことなら何時間でもやっていられるとか、これだけは他人にちょっとだけでも自慢できる特技やコレクションがあったりすれば、それを自信にしても良いと思います。

そしてもう1つ大切なのは、
思いやりです。職人の世界ですし、調律を勉強するといっても工場勤務ならと思う方もいらっしゃいますが、ピアノという楽器は人間が演奏したり聴いたりして、その音楽の世界を心で感じて楽しむものです。その楽器を作ったり直したりする人が思いやりのない人だったら、ピアノの音を聴いて楽しんだり癒されたりもできません。プロである以上、確かに商売ですし生活をするために仕事をするわけですが、使う人聴く人に対する思いやり、より良い音でピアノを楽しんでもらいたいという気持ちが常にないと、調律師として仕事を続けていけません。思いやりがない人にはお客様からの信頼も得られない仕事です。
3 調律の学校に入る前にやっておくと良いことは?
「1」でも述べたようにヘッドフォーンの使用を控え、できるだけ大音響の中に長時間いないようにしておくことが大事です。

その他に予習的なことをしておくとしたら、まずは、
日頃の学校の一般的な勉強をしっかりやっておいてください。新聞やTVでニュースを
読んだり見たりするくせを付けておくと、一般常識問題には強くなれますし、就職してからもお客さまとのトークの中で、話題豊富なら、人気を集められるという利点があります。

「2」でも述べたように調律師は演奏者のことを常に思いやる気持ちが大切な接客業です。お客様に喜んでいただくことがやりがいにもなります。チャンスがあるのなら、
接客関係の店舗等でのアルバイト経験も、けっこう役立ちます。飲食店でも小売店でも学校や家庭のルールでアルバイトが禁止でなければやってみると良いですし、調律の学校に行きながらそういったアルバイトをするのも良いです。
一般的な調律師は毎日、1〜3件車か電車で出張します。車で移動するには当然運転免許が必要ですから、普通自動車運転免許は取得しておいた方が良いです。これは高校卒業後に春休みや専門学校に通いながら夏休み等に取得する人が多いです。

さらに、積極的に予習をしておきたいのなら、ピアノの歴史に関する本をインターネット等の本の通販サイトなどで検索して購入して読んでみたり、ピアノ曲を聴いてみたり、大きな楽器店に行ってお客さんのふりをして店内の雰囲気を見てみるとか、ピアノの演奏の練習をしておくのも良いです。ただ、演奏実技に関しては、ハイレベルでなくても大丈夫ですから心配しなくても良いですよ。
4 調律はどこで勉強すれば良いの?
昔は、ピアノの工場で見習いからはじめて先輩に習ったり先輩の仕事を見て覚えていくのが当たり前でした。まさに職人の世界です。しかし現在の日本では調律業界のほとんどの人が養成所か専門学校を卒業しています。
現在、調律師になるためには、
調律の専門学校か養成所をある一定以上の成績で卒業することが一般的です。個人の調律師に直接習って勉強したり、個人の調律師が少人数を集めて教える所もあるようですが、就職するまでにそこだけでの指導を受けていきなり仕事をするには、就職後にも先輩の指導を受けながらでなければ一般の楽器店や調律事務所で雇ってもらうのは難しいです。

調律のやり方を覚えるだけでしたら確かに難しくありませんが、実際に思った通りの調律ができるようになるためには、多くの理論の他に、多くのピアノのメーカーや機種のピアノの調律経験やタッチの調整、修理もある程度は勉強するだけではなく実践する教材(複数台のピアノ)がないと一般レベルの調律師としての仕事はできません。
5 調律師になるためには資格が必要なの?
調律師には国家資格を取得しなければならないといった資格制度ありません
極端なことを言えば、学校等で勉強もしていない「自称調律師」は違法ではないのです。
しかし、よりよい音で、より長く使っていただくためのコツは経験が大切で、その経験ができるのは、現在の日本では、まずは一般の楽器店や調律事務所に就職して一般のお客様のピアノの調律や修理を日々1台1台数多くこなしていくことです。そして、これらの企業では、調律業界で名の知れた調律学校をある程度の成績で卒業した証明があってはじめて採用されますので、いわばこれが調律業界の入社資格のようなものです。
やり方を覚えてすぐ独立しても、お客様も集まりませんからおそらく月に何十台も調律することは不可能でしょう。
現在の日本では、
調律学校を卒業することが、第一歩です。
6 調律学校選びのポイントは?
調律の学校は学校独自の自慢できる点や特徴がそれぞれにあります。ですから、どこが良くてどこが悪いという評価はできません。
自分で資料を集めたり学校見学をして自分の目で自分に合っている学校を探すことが必要です。

調律師の仕事といっても、一般家庭から専門家向け、調律以外にも調整や修理の技術など、さらには、工場での勤務などもあって仕事の内容も様々です。まずは、
どんなタイプの調律師を目指しているのかで学校選びの基準は変わります。

しかし、それこそ調律業界に入ってみないと業界の実情はわかりづらいものですから、無難な点で考えれば、ある程度規模の大きい学校です。つまりできるだけ生徒数や先生の人数が多い学校を選ぶのは安全策です。
授業内容は豊富で授業時間数も多いところが良いです。授業時間が少ない学校は練習用のピアノの台数が少ないかもしれませんからこれはダメです。
私でさえ、1日2台程度の調律を毎日、休みは月に0〜4日程度でやっているわけですから、これから勉強しようという素人さんが調律をたまにしかできないのでは、とてもプロにはなれません。日々の調律は、ピアニストが毎日、ピアノの練習をすることと同じように大切なことです。

さらに将来に安定を求めたいというなら・・・まあ、安定という点では調律業界自体がおすすめではありませんが、強いて言えば、
過去の楽器業界への就職先の実績です。学校選びに選択の幅があるのであれば、楽器業界への就職率が良い学校を選んでください。
調律学校は全国をみても数が限られていますが、ある程度の歴史がある学校は、比較的就職先も豊富です。学校に求人が来なくても就職活動の際に学校の名前は面接時に見られますので、そのあたりの実態や就職実績を調べてみてください。
どの学校でも、就職率がいくら良くても卒業生全員が調律師にはなっているわけではありません。卒業後調律師の社員になれる人は半分にも満たなかったりしますし、就職後も調律師の仕事だけしていられる人は少ないです。相当な覚悟を持って専門学校の入学を決めてください。
7 専門学校入学基準は?
入学審査の基準は学校によっても違いますし、入学年度によっても異なりますから一概に言えませんし、私も現状を把握しているわけではありません。
一般的には、学力検査と適性検査があることが多いようです。

学力は高校卒業レベルで、一般常識問題なら国家公務員試験の3種試験(高校卒業程度)の問題集が7割もできていれば問題ないと思いますが、高校の遅刻や欠席がやたら多いのでなければ、そんなに心配しなくても大丈夫だと思います。

適性検査については、学校により考え方も異なりますので、それこそ基準は不明ですが、
「1」や「2」で述べた身体的・性格的な適正が見るからに不適正であれば適正で不合格になることも考えられます。

不安ならば、複数の調律学校を受験しても良いでしょう。受験は、試験の日程が重なることはほとんどありませんので、東京周辺なら可能だと思います。大学受験に比べると、専門学校の入学試験は、かなり早くから行われています。
8 卒業後の就職先は?
調律学校を卒業して調律師になりたいのであれば、楽器店調律事務所に調律師として就職するか、ピアノの製造・修理工場に就職して技術者として就職することになります。できるだけ年間の調律件数やピアノの修理や調整の仕事が多いところに就職してください。現実問題お給料のことも考えなければなりませんが、まずは仕事の内容に重点を置くべきです。仮に正社員になれなくても楽器店に所属して調律ができるのであれば、複数の楽器店に所属する方法もありますから1ヶ月あたりの調律・修理件数を多くしたいものです。
9 調律学校を卒業してすぐに独立しても良いの?
国家資格が要らない仕事ですから、やり方だけ覚えて調律師として独立することは可能です。しかし、お客様のピアノのことを考えると、調律師としての業界での自分の技量のレベルがわからないままで仕事としてやっていくことは好ましくありません。調律の学校を卒業したばかりの調律師は、実務経験のある調律師から見たらまだまだ素人さんです。2年間学校で勉強して調律はある程度できるようになったのだとしたら、あなたは卒業後の2年間で学校とは違う2年分の勉強をします。もちろんこの勉強は引退するまで続きます。日々、1台1台のピアノの癖や様々なお客様の個性や価値観と出会うことになります。しかし、学校では先輩先生方に習っていたことを、はたして自分1人の力だけでいきなりできるでしょうか?

車の運転免許の取得に例えるのなら、調律学校卒業時には自動車教習所でいう「仮免許」の段階です。所内は規則通りに正しく走れても、運転がうまいわけではありません。調律学校を卒業してはじめて「路上」に出るわけです。ですから、まずは楽器店や調律事務所、工場に就職して先輩調律師や楽器業界の営業社員の方々から、お客様との接客をはじめとした様々なトラブルやアイディアなどの対応方法も学ばなければならないのです。
教習所の所内では検定試験のときに子供の飛び出しも急な割り込みをする暴走車も違法駐車もありませんが、路上では常に様々なことを予測して運転しなければなりませんが、的確な予測には経験豊富な教官からの事前の適切なアドバイスと日々の自分自身の経験が必要なのと同じです。そして、調律師がお客様のピアノを調律するということは、毎日が「本試験」なのです。しかも、ピアノもお客様も違う以上、答えもいつも同じというわけではありません。

調律についての勉強が足りないままだと、自分の技術を高めていくこともできないからです。調律は、基礎があってそれを経験の中でさらに工夫して技術を高めていきます。一度覚えれば良いというものでもなく、できるだけ毎日調律し続けることが、ピアノの練習と同じように大切な感覚を守ることになるのです。


長くこの業界で頑張っていくのであれば、せめて5年くらいは楽器店や工場に就職して先輩の仕事ぶりを盗み見たり、楽器業界の実際を知っておいて損はありません。
10 調律師の収入は良いの?
結論から言いますと、お金のことが心配なら調律業界はやめたほうが良いです。
調律師で、日本の一般の同年代の平均年収と比較してお金をかなり稼いでいるという話はあまり聞きません。
共通しているのは、好きでやっているという点です。

調律料金は1万円以上するのが一般的ですが、1日に何台も調律するには相当の体力・集中力が必要ですし、そんなに多くのお客さまを確保することは難しいくらい、調律師は飽和状態です。調律をしていない眠っているピアノの台数を考えれば調律師は不足していると言う数字も出せますが、現状では、各楽器店や調律事務所で調律されていないピアノをお持ちのお客さまへ調律をお勧めする活動は常に行っていますが、実際の調律件数は年々減っています。

ピアノは、1台1台個性、くせがあり、演奏者にも個性があります。ピアノが置いてあるお部屋の環境にも差がありますので、同じ仕事をしても同じ結果は得られません。そこで問題なのは、お客さまのピアノの状況によっては、比較的スムーズに作業できるピアノもあれば、故障の多いピアノもあります。しかし、お金が目的で作業していれば、調律業界の相場では割の合わない作業料金の作業を避けることになり、これではピアノを愛しているとは言えず、狭い調律業界にも悪い評判が流れることになるでしょう。それくらい長く調律師をしている人たちはピアノを愛している人ばかりなので、収入についての愚痴は言っても、結局調律師は転職する気はありません。

やめる人は就職後1年から3年程度でやめていきます。理由のトップは、待遇の悪さです。楽器店では調律料金の半分以上は経費として会社に持って行かれますからね。また、はじめからずっと調律をやっていれば良いという会社は少なく、調律師として就職しても多種の雑用や営業活動などの業務はついてくることが多いです。

お金を稼ぐかどうかは、調律師の技術ではなく、実業家としての才能が問題も関係しますが、調律業界で調律だけで大きな財を成した人っていう話はあまり耳にしませんので、お金が好きな人にはお勧め出来ませんね(笑)

具体的に収入をお知りになりたいのであれば、最寄りの楽器店に聞いてみれば、中には教えてくれる会社もあると思います。地域やお店・仕事の内容によって給料には差があります。初任給は、月給20万円を超えるお店の方が少ないといって良いでしょう。さらに昇給が少なく、10年間勤めても年収が400万円を超えない人は珍しくありません。
経験をつんでから独立すれば高収入も自分次第ですが、取引先や顧客の開拓を地道に広げていくには、当然、様々なケースに的確に対応できる高度な技術レベルと経営力も求められます。

余談ですが、ヨーロッパでピアノがあまり普及していなかった頃の調律師の調律代金はものすごく高かったそうで、1台調律すれば1ヶ月以上遊んで暮らせたそうです。
現在は値下げ競争にも下げ止まらずをえないくらいお金にはみな苦労しています。
11 独立を目指す方へ
最後に、独立開業を目指す方へお話しておきます。独立開業をするということは、調律師ということだけではなく、経営者でもなければなりません。個人事業なら事業主、法人なら代表、取締役や社長ということです。
実務経験をつんだ後に独立をすると決めているのであれば、独立する前から準備をしておかなければなりません。会社で働くのがいやだからどこにも所属しないで独立するなんていう考え方では、独立しても仕事は続かないでしょう。大企業がやっていることと同じように、個人でも経営するということは戦略・方針を立て、自分をアピールし、技術を向上し、サービスに工夫をして常に先を見越した計画を立てていくことです。調律の世界には一攫千金ということはありませんからね。
独立前にやっておくことはたくさんありますが、私から簡単に例を挙げさせていただくと、「調律を数多くやっておく」、「お金にならなくても修理や調整をやる機会を自分から作っていく」、「失敗を恐れずにお客様と積極的にコミュニケーションをとる」、「独立開業するには?などの本を読んで、独立時の税務署や県税事務所等への諸届けや簿記等の帳簿や税制についての勉強をしておく」、「新聞をよく読み時代の流れや動きを大雑把にでもつかんでおく」といったことは必要です。また、「上司や先輩と苦手な人でも仲良くして話をいっぱい聞いておく」ことは、独立してからも良い人脈となってあなたにとって良い助っ人や理解者になることはあっても損なことはないはずです。同じ業界で独立するならば、喧嘩別れをして会社を辞めることは狭い調律業界ではご法度です。
もちろん、独立してからもピアノに関する知識や技術の向上を続けなければ、調律師の仕事に面白みを感じなくなってしまうでしょう。


ここまで読んだあなたなら、自信を持ってください。
全部読むのは大変だったと思いますよ。根性があります。好きなことにとことん打ち込めるあなたなら良い調律師になれると思います。

ぜひ、ピアノを愛する人たちのため、そしてこれからピアノの面白さを知ってもらえるかもしれない人たちのために、頑張ってください!